「人は人の意見に強く左右される」という習性を生かした文章の書き方
人は、人の意見に強く左右されます。クチコミが最たる例ではないでしょうか(クチコミ=人の意見)。
そこで、ここでは、「人が、人の意見に強く左右される」という習性を生かした文章の書き方を、わかりやすく解説します。
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韓非子の逸話「市に虎あり」
「市に虎あり」という有名な逸話があります。
現代風にたとえると、以下です。
大臣:「ひとりの人が、新宿に虎がいるといえば信じますか?」
王:「信じぬ」
大臣:「じゃあ、三人がいえば、信じますか?」
王:「信じる」
大臣:「ふつうに考えれば、新宿に虎がいないってのはわかりますよね。でも、三人がそう言えば、どんな嘘でも、それが真実だと思えてしまうんですよ。私が不在のとき、皆がいろいろ、私について根も葉もない噂を流すでしょうが、信じないでくださいね」
王:「わかったぞ」
で、大臣が不在のとき、嘘の噂を吹き込まれて、王はそれを信じてしまったとさ。
要は、明らかな嘘(新宿に虎がいる)であっても、多くの人が「真実」といえば、本当だと思うようになるってことです(「市に虎あり」では、王はたった3名でも信じると言っています)。
しかも、「人にはそういう心理があるから気をつけて」と忠告しても、つい騙されてしまいました(大臣が王に進言したのに、王は大臣に関する根も葉もない噂を信じてしまっています)。
人は、人の意見に「強く」左右されてしまう生き物なのです。
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「人の意見に左右される」という習性を生かして、文章を書こう!
「市に虎あり」にあったように、人は、人の意見に「強く」左右されます。
では、この「人の意見に左右される」という人の習性を、具体的にどのように文章に利用すればいいのでしょうか。
ここでは、3つの方法を紹介します。
売れていれば、売上数を書く
1つ目は、売れていれば、「売上数」を書くことです。
たとえば以下。
・10万本が売れました!
これが「人は、人の評価を気にする」というのと、どのように関係があるのでしょうか。
・10万本が売れた
→10万人がお金を払って買っているんだ!
→品質が悪ければ、10万もの人は買わないよね。
→いい商品に違いない。買おう!
だから、売れていれば、売上数を書くといいでしょう。
逆に、もし売れていないことを書くと、どうなるでしょうか。
たとえば以下。
・50本が売れた
品質と売れ行きは、必ずしも合致しませんが、以下のように「人から評価されていない=買わない」という心理が働きますよね。
・50本が売れた
→50本しか売れなかったんだ…。
→品質が悪いから、50本しか売れなかったんだ。
→悪い商品に違いない。買わない!
だから、売れていないと書くのはやめましょう。
なお、「自分にしてみては、これだけ売ったのはスゴイ」と思うかもしれません。しかし、客観的に見れば、「たかが、その程度」となります。「売れた」「売れない」の基準は、客観的に大きな数字かどうかが重要なのです。
とはいえ、実際、インパクトを出せるほど売れる商品は少ないので、この手はほとんどの人には使いにくいと思います。
そこで、2つ目の方法です。
売れているように見せかける
インパクトがあるほど売れていない場合は、プラスの側面だけ、前面に押し出すといいでしょう(参考:情報の出し方を工夫して、文章を書く)。
たとえば以下。
(ア)全国で絶賛販売中
(イ)売り切れ続出
(ウ)10万本突破!
この文があれば、以下のような心理が働きます。
(ア)全国で絶賛発売中
→全国の消費者が買っているんだ!
→品質が悪ければ、全国の消費者は買わないよね。
→品質がいいに違いない。
(イ)売り切れ続出
→みんなが買っている。
→品質が悪ければ、買わない。
→いい商品に違いない。
※)売り切れ続出は、希少性の心理の方が強いかもしれません。
(ウ)10万本突破!
→10万人がお金を払って買っているんだ!
→品質が悪ければ、10万もの人は買わないよね。
→いい商品に違いない。買おう!
よく考えると、このいずれの文も微妙です。
まずは、(ア)。
「全国で絶賛販売中」って、単に全国で販売しているだけですよね。売れているかどうかは関係ありません。
次に、(イ)。
「売り切れ続出」って、1000店舗のうち、5店舗だけで、しかも、在庫が3個しかないのかもしれません。
最後に、(ウ)。
先ほどの「10万本が売れました!」と微妙に違うのはわかったでしょうか。
(ウ)だと、「販売数」なのか「生産数」なのかわかりません。10万本生産しただけで、全く売れていないかもしれません。
しかし、以下の心理が働いてしまいます。
・全国で絶賛発売中
→全国の消費者が買っているんだ!:消費者が勘違いする
→品質が悪ければ、全国の消費者は買わないよね。
→品質がいいに違いない。
・売り切れ続出
→みんなが買っている。:消費者が勘違いする
→品質が悪ければ、買わない。
→いい商品に違いない。
※)売り切れ続出は、希少性の心理の方が強いかもしれません。
・10万本突破!
→10万人がお金を払って買っているんだ!:消費者が勘違いする
→品質が悪ければ、10万もの人は買わないよね。
→いい本に違いない。
決して、ウソを書くわけではありませんが、良い印象を与えられるように、プラスの側面を前面に押し出します。
……「なんて姑息な手段を使うのだろう!」と憤慨した人もいるかもしれません。でも、そう思っている人も、実生活では、この手を使ったことがあるのではないでしょうか。
たとえば、「面接」「婚活」のときです。
軽く経営学の本を読んだ程度なのに、面接官の前では「経営に興味があります」などといったり、仕事に挫折を感じているのに、お見合いの場では「仕事にやりがいを感じています」と言ったり。程度の差はあれ、人は自分を大きく見せる生き物です。
かといって、このような誤解を生む文章を推奨しているわけではありませんので、あしからず。
クチコミ
3つ目は、クチコミです。
たとえば以下。
「これだけ素晴らしい商品に出会ったことがありません(30代、会社員)」
「はじめは懐疑的でしたが、実際に商品を使うと、驚きの連続でした。ここまで効果があるとは思いませんでしたよ(20代、会社員)」
この文があれば、以下のような心理が働きます。
・クチコミ
・誰かが評価している
・いい商品に違いない
なお、心理学の本によると、人は、自分の立場に近い人のクチコミを信じるそうです。だから、クチコミをそろえるなら、読み手の立場に近い人のクチコミにした方がいいでしょう。
長く利用されているのには理由がある
「10万本が売れました!」
「全国で絶賛販売中」
「売り切れ続出」
「10万本突破!」
目新さはない、よく見かける文です。
なぜ、これだけベタな文章なのに、相変わらず利用されているのか、もう、その理由がわかったのではないでしょうか。
人は、人の意見を気にする生き物だから、このように書かれても、どうしても気になってしまうためです。
「クチコミが捏造されていることがわかっていても、やはり、クチコミを見てしまう」
「人は、人の評価を気にするから、この手の文に惑わされず冷静に判断しないとと思いながらも、この手の文に惹かれてします」
「絶対に眠らない」と思っていても眠たくなって、ついには寝てしまう――人の本能ほどではありませんが、やはり、わかってはいても、この手の文章に魅力を感じてしまいます。